東京・八王子市は、婚姻届を提出していない母親、いわゆる「非婚の母」(非婚ひとり親)に所得税の寡婦(寡夫)控除を「みなし適用」することを決めました。これまで「非婚の母」家庭は、寡婦控除制度の対象外とされており、みなし適用した例は、地方自治体では岡山市、千葉市などでしかなく、東京では八王子市の例がはじめてのことです。

 日本弁護士連合会(日弁連)ではこの問題を重視しており、「非婚の母」に所得税の寡婦控除が適用されないのは、「憲法に違反して人権侵害に当たる」とする調査報告書をまとめ、総務大臣、東京都・沖縄県の知事、新宿・八王子・那覇の区市長に対し、寡婦控除適用を求める要望書(今年1月11日付)を山岸憲司会長名で提出していました。日弁連による「寡婦控除における非婚母子に対する人権救済申立事件」の調査結果に基づいて、申立人が居住する自治体と国へ要望したもので、八王子市の「適用決定」はこの要望に応じたかたちとなります。

 日弁連の要望書では、「非婚の母」を「過去に法律婚をしたことがない母親を指す」としています。しかし、税法上の規定では法律婚を前提としており、「夫と死別、離婚した母子世帯」が寡婦控除を適用され、27万円(特定寡婦は35万円)の所得控除が受けられる一方で、結婚せずに子どもを出産した「非婚母子」の世帯には適用されません。
 調査結果によると、寡婦控除が適用されない「非婚の母」の世帯では、夫と死別・離婚した母子世帯と比べて所得税の負担が大きいだけではなく、住民税や保育料、公営住宅家賃、国民健康保険料などの算定で不利益が生じています。平成23年の「国民生活基礎調査」によると、全世帯の平均総所得が538万円だったのに対して、母子家庭の平均総所得はその半分にも満たない252万3千円でした。

 八王子市が「実例」をもとに算出したケースでは、年間給与201万円余で2歳の子どもを育てている「非婚の母」の場合、所得税、住民税、保育料、市営住宅家賃の合算額は59万7千円ですが、婚姻歴があれば46万9400円ですむため、差額の12万8千円が負担として重くのしかかることになります。

 こうした実態について、日弁連では子どもの立場から「『自分の母の婚姻歴の有無』という子ども自身ではどうすることもできない属性によって、大きな不利益を受けており差別だ」としており、寡婦控除制度を「非婚の母」にも「みなし適用」するよう、今後も八王子市以外の自治体に対して要望を継続していくとしています。
 寡婦控除は、税負担だけにとどまらず、住民サービスのさまざまな場面で「負担額」などを計算する際、その基礎となる「所得」の算定に関係するため、適用の有無が生活に大きな影響をおよぼすことがあります。
<情報提供:エヌピー通信社>