◆振り込め詐欺ではじめての税務係争
 平成20年中に、いわゆる振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失が雑損控除の対象になるとして、税務署と国税不服審判所で争った人がいました。
 長男と名乗る氏名不詳者から、電話で「勤務先の金を流用したので、穴埋めするための金が必要である」旨のウソを告げられ、電話の相手方が長男本人であり、金を必要としているものと誤信し、郵便局から、電話の相手方が指定した銀行口座に240万円を振込送金し、さらに、翌日と1週間後にも電話でのウソに乗じて260万円及び320万円、合計820万円を振込送金し、その後にだまし取られたことに気付き、警察署に被害届を提出した、と言う事例です。

◆税務署の主張と審判所の裁決
 「災害」による損失には、本人の意思に基づく行為に依るものは該当せず、「盗難」とは、占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転をいうのであり、「横領」とは、財物の委託者と受託者との間に信任関係があることが前提で、振り込め詐欺犯との間にそれがないから、本件が雑損控除の対象となる災害・盗難・横領のどれにも当たらない、と税務署側が主張し、かつまた審判所も同じ判断をしました。

◆納税者はどう言っていたか
①振り込め詐欺は、病んだ現代社会が生み出した「人為による異常な災害」であり、国税庁が雑損控除の対象であるとした耐震強度偽装事件が建物販売会社の詐欺行為(販売)に基因していることと共通面があり、これと同じく取り扱ってもおかしくはない。
②長男に渡すつもりで振り込んだ金銭について、それだけで所有権の移転がないとすれば、たまたまそれを管理している者が横取りしたのであるから、「横領」に当たる。
③振り込んだ金銭について、本人の意に反してただちに所有権の移転があるとするなら、それは「盗難」に当たる。

◆審判所は十分な吟味をしているか
 裁決書を読む限りでは、結論先にありきで、納税者の主張への十分な吟味をしているようには見受けられません。
 社会安寧の確保が国家の義務であるとしたら、新しい犯罪により高齢年金者が狙われることに対し、配慮がもっとあってもよいのではないでしょうか。