現物配当は会社法上の用語で、一方、現物分配は今年度(平成22年)の税制改正で法人税法において創設された制度です。

◇現物配当の概要(会社法上)
 現物配当は、剰余金の配当のうち金銭以外の財産による配当のことで、会社法にその規定が設けられています。原則として、株主総会の特別決議によることが必要です。
 現物配当の対象となるのは会社の財産に限定されているため、負債や事業そのものの移転は求められないようです。
 極端な例ですが、全株主の同意があれば、甲株主さんには「株式」、乙株主さんには「車」、丙株主さんには「金銭」を配当することは認められます。また、土地を共有持分で配当することも認められます。

◇現物分配の概要(法人税法上)
 現物配当について法人税法には明確な規定がありませんでしたが、実務(法人税基本通達)では、概ね、会社法の規定に従って運用されていました。
 しかし、今回の改正で、法人がその株主等に対して、剰余金の配当、利益の配当、さらには自己株式又は出資の取得といった一定の剰余金処分行為について、金銭以外の資産の交付を行った場合、これを「現物分配」と定義し、現物分配によりその保有する資産を交付した法人を「現物分配法人」、資産の交付を受けた法人を「被現物分配法人」と定義しました。

◇現物分配と組織再編
 法人税法では、この現物分配を資産の譲渡とみなし「組織再編の一環」として位置づけました。すなわち、現物分配法人と被現物分配法人との間に完全支配関係(株式等の直接若しくは間接による100%の保有関係が成立)ある場合には適格現物分配とし、それ以外の現物分配(非適格現物分配)とで異なる課税関係を定めました。
 適格現物分配であれば、被現物分配法人では、交付を受けた資産については配当所得を認識せず、かつ、交付資産は簿価で譲受けたしたものとし、現物分配法人では譲渡損益(交付資産の時価と簿価の差額)を認識しません。
 一方、非適格であれば、被現物分配法人は配当所得の認識及び時価譲受、現物分配法人は譲渡損益の認識、さらに源泉徴収義務も負うことになります。
 この現物分配は、運用次第では、即効性のある事業再編を可能にするかもしれません。