私たちは、物事を〈見て〉暮らしている。しかし、環境条件が変われば、〈視る〉や〈観る〉ことも必要だ。

昭和29年に、一人の男がドイツ及びヨーロッパ各地を目指して飛び立った。本田宗一郎さんである。

帰国した本田さんは、「土産はいろいろあるけど、とりあえず役立つのはこれだな」と言い、一見何の変哲もないネジのような物(と一般の人の目には映った)をポケットから取り出した。

このネジこそ、今ではごく一般的に普及している“プラスネジ”であった。

工場の片隅に落ちていたネジは、本田さんの“視る目”と“観る目”によって命を吹き込まれたのだ。なお視るとは、物事を広く見る。そして観るとは、物事を深く見ることを言う。

この一事により、それまでマイナスネジしか無かったため、手回しのドライバーしか使えなかったのが、自動ドライバーでガーッと一気に締めればよくなった。

生産現場を革命的に改善できたのだった。