●山あり谷ありの体験が、考え方に深みと幅を育てる
 10年以上の間を置いて会った人の中に、数少ないが、大きな変化を感じさせる人がいる。
 〈この人は内面的に、驚くほど変貌し熟成した経営者に変わっておられる。以前はもっと気が短く、人の話をあまり聞かない人だったが、どうしてどうして今は、聞き上手で・・〉
 もちろん会社の経営も、見事な手綱さばきで安定成長を続けている。
 ところが何十年経っても、気性も言動も昔のままという人もいる。
 このタイプの人は、「全然お変わりなく、相変わらずお若いですねえ」というようなお世辞に滅法弱い。
 いやいや・・と受け流しつつも、単純に喜んでいる。
 語る言葉を聞いても、その中身に年輪にふさわしい重厚さがない。端的にいえば、「この人はここ10年、馬齢を重ねてきたんだろうか」という思いがわいてくる。
 経営は10年20年と携わるうち必ずといっていいほど苦境を経験するものだ。まさに、山あり谷あり、喜びも哀しみも経験する。人によっては奈落に落ちるような経験もする。
 こういう山あり谷ありという経験を積み、谷底から高い土手を這いあがるような経験を積み波瀾万丈かそれに近い起伏のある経験が、その人の容貌を変え、物の見方、考え方も変える。
 しかし、お若い・・などのお世辞に弱い人は、物の見方や考え方に重厚さが加わらない。
 若く見えるのもいいが、考え方が薄っぺらなままは困りものである。

 ●この自己改造が欠かせぬ経営トップ

 波瀾万丈の経験とは違い、順風満帆の帆船にひょいと乗り込み、船長の役を仰せつかった人間は、烈風を呼ぶ風雲を前にしても、荒れ狂う怒涛が船腹を叩こうとも、成すすべを知らず、いたずらに狭隘な自分の経験に頼ろうとして、船もろとも沈むこともある。
 一般に、こういう人の性格や考え方には、つぎのような傾向が見られる。

1、性格が金属的である。その金属には弾力性がなく、柔軟性に欠ける。

2、一度身につけた価値観に、いつでも捕らわれ、時流とかけ離れた自分の実像が見えない。

3、自己主張に捕らわれ、周囲の意見や考え方に、耳を傾けるのを嫌う。

4、自負が強いのはいいが、その考え方に時流の知恵がないのに気付かない。

5、自分の考え方に同調する部下を高く評価する。(偏向人事)

6、反対意見に耳を傾ける度量(肚)がない。

7、真面目なのはいいが、清濁合わせ飲む器量には程遠い。

8、有能な部下は個性も強いが、そういう有能な幹部に嫉妬する。

9、ずっと続いてきた自社の体制秩序を壊し、新生体制を構築する勇気がない。

10、時代即応の新製品開発には、失敗したら?という不安が先行し実現できない。

                                                
上記10項目中6項目以上が該当した上、3年以上も業績低迷する会社なら、経営トップは潔くこの指摘を受け入れ自己改造に挑むほうが、会社の将来を救うものと思います。