鬼門へのこだわり
●鬼門の祟りも何のその
江戸時代の町人学者の西川如見(じょけん)は、鬼門についてこう記している。
「東北の間を鬼門と言い、諸人忌み嫌う。(中略)
鬼門こそ用ゆべき方角なれ。善心の人の住む処ならば、何の禍ひあらん」
即ち、「“鬼が出入りする北東の方角”を鬼門と称して、忌み嫌う人が多い。しかし、鬼門の方角に生かすべき土地あれば、大いに生かすべきだ」
これについては、松下幸之助(パナソニックの創業者)にも、こんな話がある。
時は昭和8年のこと、業容拡大のために現在の本社である門真市に、土地を求めようとしたところ、関係者から「あんな鬼門の方角に当たる場所でなく、もっと別な所に求めたほうがいい」と助言をされたという。ところが幸之助さんは、それに反論して自分の意見を通した。
「考えるに鬼門を気にしていたら日本には住めない。日本は北海道が表鬼門、九州が西南の裏鬼門に当たる。つまり、日本全体が鬼門だらけだから、鬼門があかんというのであれば、日本列島から出てゆかねばならない」
ということで、現在、パナソニックは本社を門真にして成長を続けている。
鬼門の災いも無ければ、何かの祟りもない。
●昔も今も変わらぬ風評家
若い人には、「風水」が信じられているようだ。この「風水」というのは、屋敷の広さが、東京ドーム何十個分にも相当する中国の大金持ちが、ここには木陰を作らないために木を植えないとか、逆に木陰を作るために木を植えるとか決めていたのを、ミニュチュア版にして応用したものである。
大金持ちの「風水」にはそれなりの理屈も通るが、日本の若い人が信じる「風水」には、信じる余地もない。あんなものを信じてしまうほど、日本は平和ボケしているのかもしれない。
「鬼門」というのも、若い人の「風水」みたいなものだ。
こんな話がある。高崎市のあるダンボールの加工会社に、「いまの会社を興したのも、夜の夢で神のお告げがあったから」と、信じて疑うこともない社長がいた。
この社長は、新しい加工工場を作るのに適地を探すときに2ヵ所が候補にあがったが、「この物件は、方角が悪いからダメ」と言い始めた。
むしろ諸検討の結果この物件が適地なのに、逆の結論なのである。
いくら言ってもラチは明かなかった。
何年かして、この工場は別の会社の看板に変わっていた。
近所の人から、こんな風評を聞いた。
「なんだか祟りを受けて倒産したとか。そんな噂ですよ・・」と。
バブルの時代に、ある証券会社の幹部たちが、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」みたいなことを言って、客を騙していたのがバレたが、時は変われども、鬼門や八卦のたぐいは、相変わらず盛況のようだ。