お世辞に強くなる
中国は唐の時代に、殷安(いんあん)という学者がいたそうだ。大物の人格者として、弟子の志望者も多かったという。
ある日のこと殷安先生、こんな講義をしていた。
「古来よりわが国には、聖人と呼ばれる人物は五指に満たないものだ。第1は、神明の徳に通じた伏羲だ。第2は、農耕の道を教えた神農だな。そして第3には、殷の肘王を討って善政を敷いた周公だ。さらに第4には、人倫の道を伝えた孔子であり・・」
そして、「ざっと見てこんなものじゃ。ほかに聖人といえそうな者はおらんわな」と言ってみんなを見渡した。
すると生徒の一人が、こんな疑問を呈した。
「先生、それは違うんじゃありませんか。もう一人、肝心カナメの第5の人物がいると思いますが。いかがでしょうか」
「だだだれじゃ。その、もう一人という人物とは・・」
「先生それは、あなたさまご自身でございますよ」
生徒はぬけぬけと、大きな世辞を言いゴマをすったのである。
ところが殷安先生は照れながら、「いやいや、わたしなんかとても聖人と言われるガラじゃないわい」と言いながら、指は五つめの指を折り、ちゃんと自分をカウントしていたそうだ。
ホメられるのは、いくつになっても嬉しい。この殷安先生の心理は、だれでも持っているものらしい。