ウソもつけない真面目人間の悲哀
「水清ければ魚棲まず」という格言は、いやでも耳にした言葉とは思うが、俗っぽく要約すれば、「真面目だけじゃ、世渡りはうまくできない」という意味である。
ところで、次の格言や箴言を左右対照してご覧いただきたい。
●善は急げ・・・・・・・・ ●急がば回れ
●はじめが肝心・・・・・・ ●おわり良ければすべて良し
●君子危うきに近寄らず・・ ●虎穴に入らずんば、虎子を得ず
●武士は食わねど高楊枝・・ ●腹が減っては戦が出来ぬ
●大器晩成・・・・・・・・ ●栴檀は双葉より芳し
●ウソも方便・・・・・・・ ●ウソは泥棒の始まり
「これらの言葉で、どちらが正しいのですか?」と聞かれたら、あなたはどう答えるでしょうか。
どちらも正解です。時と場合により、左が正解の場合もあれば、右が正解の場合もあります。
たとえば、「ウソも方便―ウソは泥棒の始まり」について、ある人が父が亡くなる前の新緑の時期、九州の宮崎に見舞いに行った。医者に会うと、余命の身近なことを知らされた。
医者とその人は、父にウソを言うことを約束し合った。
父に会うとその人は言った。
「なんだ、元気じゃないか。さっきも医者に聞いたが、現在の新緑が深緑に変わる頃は退院らしいよ。今が丁度見極めの時期だって」
やがて深緑の候を半年も長生きして、この世を去った。
もし本当のことを話したら、父はとてもあんなに長生きはできなかったのではないかと、その人は今もそう思っている。