★ 中小会計要領の主な内容 その5 経過勘定 1、特に短期前払費用 ★
投稿日:2012年05月15日火曜日 11時37分57秒
投稿者:税理士 溝江 諭 KSC会計事務所 カテゴリー: General
札幌市豊平区の 税理士・社会保険労務士 溝江 諭(みぞえさとし) です。
中小会計要領の各論のうち主なものについて、法人税法との異同を意識しながら見て行きましょう。
今回は、 経過勘定 1 です。
(1)前払費用及び前受収益は、当期の損益計算に含めない。
(2)未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に反映する。
【解説】
経過勘定は、サービスの提供の期間とそれに対する代金の授受の時点が異なる場合に、その差異を処理する勘定科目です。損益計算書に計上される費用と収益は、現金の受払額ではなく、その発生した期間に正しく割当てる必要があるからです。
経過勘定には、「前払費用」、「前受収益」、「未払費用」及び「未収収益」があります。その内容は表1のとおりです。
「前払費用」と「前受収益」は、翌期以降においてサービスの提供を受けた、もしくは提供した時点で費用又は収益となるため、(1)にあるように、当期の損益計算には含めないことになります。
「未払費用」と「未収収益」は、当期において既にサービスの提供を受けている、もしくは提供しているので、(2)にあるように、当期の損益計算に反映することになります。
なお、金額的に重要性の乏しいものについては、受け取った又は支払った期の収益又は費用として処理することも認められます。
<表1>
(内容と具体例)
前払費用・・・・決算期末においていまだ提供を受けていないサービスに対して支払った対価。
前払いの支払家賃や支払保険料、支払利息等
前受収益・・・・決算期末においていまだ提供していないサービスに対して受け取った対価。
前受けの家賃収入や受取利息等
未払費用・・・・既に提供を受けたサービスに対して、決算期末においていまだその対価を支払っていないもの。
後払いの支払家賃や支払利息、従業員給料等
未収収益・・・・既に提供したサービスに対して、決算期末においていまだその対価を受け取っていないもの。
後払いの家賃収入や受取利息等
(以上、中小会計要領)
中小会計要領においては、経過勘定の意義や範囲が<表1>において内容と具体例という形で定められていますが、企業会計原則、中小会計指針や法人税法では、対象となる「サービス」は一定の契約に従い、継続して提供を受けた役務または提供した役務とされているのに対して、中小会計要領では単に「サービス」とされているため、一見、中小会計要領の方が広範囲のサービスを対象としているように見えます。しかし、我が国においては経過勘定の定義が既に定着していると考えられますので、その範囲に実質的な違いはないと考えても良いでしょう。中小会計要領が「一定の契約に従い、継続して」という文言をなに故に省いたのか、解せません。
もともと経過勘定は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受けた場合、または提供した場合において、適正な損益計算を実現するための一時的な勘定であり、会計処理の大原則である収益の実現主義、費用の発生主義、収益費用対応の原則に基づき、収支の時期とは関係なく、役務の効果の期間にわたり、収益と費用を期間配分するためのものです。
そのため、中小会計要領を初め、企業会計原則、中小会計指針や法人税法においても経過勘定の計上は強制されています。ただ、例外として、「重要性の原則」が適用される場合が想定されており、例えば、企業会計原則注解 2.1 「注1 重要性の原則の適用について」では次のように定められています。
「企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。」として、その適用例の一つとして、「(2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。」とされています。
このため、中小会計要領でも、「なお、金額的に重要性の乏しいものについては、受け取った又は支払った期の収益又は費用として処理することも認められます。」
とされているのです。
さて、経過勘定の中で、会計実務上問題となるのは前払費用、特に短期前払費用の一括費用計上についてです。これは短期前払費用が決算期直前の利益圧縮目的で使用される場合が多いためです。
中小企業要領と企業会計原則では、残念ながら、この点についてひとことも触れていません。一方、中小会計指針ではこれについて次のように定めています(注1)。
「前払費用のうち当期末においてまだ提供を受けていない役務に対応する前払費用の額で、支払日から1年以内に提供を受ける役務に対応する金額については、継続適用を条件に費用処理することができる。」
中小会計指針のこの規定は、法人税法基本通達の短期前払費用に関する次の文章を取り入れたものです(注2)。
「前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2-8「七」により追加、昭61年直法2-12「二」により改正)
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。」
以上のように中小会計指針および法人税法基本通達の短期前払費用には、企業会計原則の重要性の原則との関連性を伺わせる文言は入っていません。それでは、基本通達にあるように、「法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入」したならば、金額の多寡に関係なく、その全額が「損金として認められる。」のでしょうか?
今回はここまで。
次回は、経過勘定のうち、短期前払費用 についてです。判例を参考にしながら解説します。
≪中小会計要領の主な内容 その6 経過勘定 2、短期前払費用≫
http://www.ksc-kaikei.com/news/
(注1)中小指針 31.経過勘定等に係る会計処理(2)
(注2)法人税法基本通達2-2-14
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今回は、 経過勘定 1 です。
(1)前払費用及び前受収益は、当期の損益計算に含めない。
(2)未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に反映する。
【解説】
経過勘定は、サービスの提供の期間とそれに対する代金の授受の時点が異なる場合に、その差異を処理する勘定科目です。損益計算書に計上される費用と収益は、現金の受払額ではなく、その発生した期間に正しく割当てる必要があるからです。
経過勘定には、「前払費用」、「前受収益」、「未払費用」及び「未収収益」があります。その内容は表1のとおりです。
「前払費用」と「前受収益」は、翌期以降においてサービスの提供を受けた、もしくは提供した時点で費用又は収益となるため、(1)にあるように、当期の損益計算には含めないことになります。
「未払費用」と「未収収益」は、当期において既にサービスの提供を受けている、もしくは提供しているので、(2)にあるように、当期の損益計算に反映することになります。
なお、金額的に重要性の乏しいものについては、受け取った又は支払った期の収益又は費用として処理することも認められます。
<表1>
(内容と具体例)
前払費用・・・・決算期末においていまだ提供を受けていないサービスに対して支払った対価。
前払いの支払家賃や支払保険料、支払利息等
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未収収益・・・・既に提供したサービスに対して、決算期末においていまだその対価を受け取っていないもの。
後払いの家賃収入や受取利息等
(以上、中小会計要領)
中小会計要領においては、経過勘定の意義や範囲が<表1>において内容と具体例という形で定められていますが、企業会計原則、中小会計指針や法人税法では、対象となる「サービス」は一定の契約に従い、継続して提供を受けた役務または提供した役務とされているのに対して、中小会計要領では単に「サービス」とされているため、一見、中小会計要領の方が広範囲のサービスを対象としているように見えます。しかし、我が国においては経過勘定の定義が既に定着していると考えられますので、その範囲に実質的な違いはないと考えても良いでしょう。中小会計要領が「一定の契約に従い、継続して」という文言をなに故に省いたのか、解せません。
もともと経過勘定は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受けた場合、または提供した場合において、適正な損益計算を実現するための一時的な勘定であり、会計処理の大原則である収益の実現主義、費用の発生主義、収益費用対応の原則に基づき、収支の時期とは関係なく、役務の効果の期間にわたり、収益と費用を期間配分するためのものです。
そのため、中小会計要領を初め、企業会計原則、中小会計指針や法人税法においても経過勘定の計上は強制されています。ただ、例外として、「重要性の原則」が適用される場合が想定されており、例えば、企業会計原則注解 2.1 「注1 重要性の原則の適用について」では次のように定められています。
「企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。」として、その適用例の一つとして、「(2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。」とされています。
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さて、経過勘定の中で、会計実務上問題となるのは前払費用、特に短期前払費用の一括費用計上についてです。これは短期前払費用が決算期直前の利益圧縮目的で使用される場合が多いためです。
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「前払費用のうち当期末においてまだ提供を受けていない役務に対応する前払費用の額で、支払日から1年以内に提供を受ける役務に対応する金額については、継続適用を条件に費用処理することができる。」
中小会計指針のこの規定は、法人税法基本通達の短期前払費用に関する次の文章を取り入れたものです(注2)。
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以上のように中小会計指針および法人税法基本通達の短期前払費用には、企業会計原則の重要性の原則との関連性を伺わせる文言は入っていません。それでは、基本通達にあるように、「法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入」したならば、金額の多寡に関係なく、その全額が「損金として認められる。」のでしょうか?
今回はここまで。
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(注2)法人税法基本通達2-2-14
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